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    不死細胞「ヒーラ(HeLa)細胞」と医学研究の功罪を解説

    目次

    ヒーラ細胞(HeLa細胞)とは増殖し続ける細胞

    ヒーラ細胞とは人から採取してできた最初の細胞株です。ヒーラ細胞は今でも「死なない細胞」として増殖を続け、世界中で研究に使われています。ここでは細胞の死についてやヒーラ細胞の元となったヘンリエッタさんのこと、ヒーラ細胞が医学に偉大な貢献をしているのに無断で使われていたという倫理的な問題を解説します。

    細胞の死は3つのパターン

    人間が生まれ、そして死んでいくように、細胞も生まれては死んでいきます。ところがヒーラ細胞はそんな細胞の生と死のサイクルから外れているかのように「死なない細胞」と言われています。一般的に細胞にとって死ぬことは普通であり細胞が死ぬ場合には3つのパターンがあります。ここではその3つのパターンについて解説し、細胞の死について見ていきましょう

    アポトーシス:細胞の入れ替わること

    アポトーシスとは皮膚などのようにどんどん生まれ変わる細胞での死のことをいいます。それは細胞が傷ついたときや胎児の体ができるときなどに起こります。例えば「垢(あか)」は古くなった皮膚が剥がれ落ちたものですが、この仕組みもアポトーシスによるものです。

    細胞が傷ついたとき

    アポトーシスが起こるのは、紫外線や活性酸素などで細胞が傷ついたとき。傷ついた細胞が増えると細胞は癌細胞に変わるなどのリスクが高くなります。このリスクを避けるために、アポトーシスによって傷ついた細胞が消えていくとされています。

    胎児の体ができるとき

    他にも人の受精卵が胎児となって段々成長していくときもアポトーシスが起こります。胎児になる初期段階で手は指と指の間がつながっています。それが5本の指に分かれていくのはアポトーシスによるものです。

    ネクローシス:細胞が外的要因で破壊されること

    火傷や打撲などケガをしたときに起こります。強い刺激を受けた細胞は生命活動を終えることになり、これがネクローシスと言われるものです。

    ネクローシスの仕組みは刺激によって細胞が膨張して細胞膜が破れ、中身が出ることによって起こります。

    アポビオーシス:脳や心臓の細胞が役目を終えること

    アポビオーシスという言葉には寿命が尽きるという意味があります。脳や心臓の細胞は比較的長く働く細胞であり、その細胞が死ぬことがアポビオーシスとされています。脳や心臓の細胞が死ぬとそれは「肉体の死」につながります。

    ヒーラ細胞はヘンリエッタ・ラックスさんの子宮頸がん細胞

    ヒーラ細胞のヒーラ(HeLa)とは採取した女性の名前からつけたものです。女性の名前はヘンリエッタ・ラックス(Henrietta Lacks)さん。アフリカ系アメリカ人で農業を営み、5人の子供を産み育て、そして1951年に31歳の若さで亡くなりました。

    本人の許可なく培養されたヒーラ細胞

    ヘンリエッタさんは子宮頸がんのため亡くなりました。亡くなる前に採取した検体を、医師はヘンリエッタさんに許可なく培養したのです。他に何人もの検体から細胞を培養して増殖を試みたのですが、成功には至りませんでした。むしろ当時の培養技術で増殖させることができたヒーラ細胞が、特別だったようです。

    ヒーラ細胞の医学的功績と問題点*1

    ヒーラ細胞は癌などのさまざまな病気の仕組みを解明することや、薬の効果と副作用などの研究にも役立てられました。特にウイルスの研究においては大きく貢献し、ヒーラ細胞によってウィルス学が樹立したと言われるほどです。ただし、現在の研究ではその問題点も指摘されています。ここではヒーラ細胞の医学的功績と問題点について解説します。

    ヒーラ細胞とウイルス

    ヒーラ細胞株ができた翌年、アメリカは感染症のポリオが広まり、その死者数はかつてないほど最悪なものでした。そこでヒーラ細胞を使ってポリオの研究が進められ、1955年にポリオワクチンを実用化させることができたのです。他にもインフルエンザ、パーキンソン病、白血病などの治療薬開発にも役立てられ、ヒーラ細胞は医学に多大な貢献をしているのです。

    エラーだらけのゲノム(遺伝情報)配列*₂

    2013年、ドイツにある研究所がヒーラ細胞株のゲノム配列を解読し公表しました。それによると、ヒーラ細胞のゲノムにはエラーが多いことがわかったのです。

    ヒーラ細胞は腫瘍から採取したもので、他の腫瘍細胞と同じようにヒーラ細胞も染色体が1本以上多く存在するなどエラーが多いのです。

    実際にヒーラ細胞のエラーが、もともとヘンリエッタさんの腫瘍細胞に存在していたものなのかを調べたいところですが、ヘンリエッタさんの正常細胞ともともとの腫瘍細胞がないので、比較することができません。他の子宮頸がんの細胞と比較して、中にはヘンリエッタさんの正常細胞が癌化したことによるエラーもあるようです。

    しかしヒーラ細胞のゲノムエラーの全てがもともとの腫瘍細胞に存在していたとも言えないのです。何度も培養を繰り返すうちに変化してエラーとなることもあります。確かにヒーラ細胞は60年以上も世界中で培養が繰り返されているので、もともとの腫瘍細胞にはなかったエラーも含まれていると考えられます。また世界中にあるヒーラ細胞は、同じものとして存在していないでしょう。

    こうしたヒーラ細胞を人由来の細胞として、今後も研究に使われてもいいのか疑問の声が上がっています。ヒーラ細胞は子宮頸がんの研究にはまだ有効とされています。しかしエラーの多いヒーラ細胞が、20年後も現在のようにさまざまな研究に使われているかどうかはわからないそうです。

    ヘンリエッタ・ラックスさんの子孫の現在*₃, ₄

    前述したとおり、ヒーラ細胞はヘンリエッタさんから許可なく培養され、「勝手に」研究に使われ続けました。遺族もそのことを知らなかったうえ、研究のために時々強制的に採血されていたのです。

    採血のときに遺族が説明を求めても納得できる返答はなく、1971年には科学誌にヒーラ細胞はヘンリエッタさんのものとして公表され、1997年にテレビでドキュメンタリー番組が制作されるなどしたにも関わらず、研究者は遺族と話し合うことはありませんでした。2013年にはドイツがヒーラ細胞株の情報を公開したのです。データには残された遺族の遺伝的傾向が示されていたので当然、遺族は抗議しデータは削除されました。

    その後ヘンリエッタさんの子孫とアメリカの国立衛生研究所と話し合いの場が持たれたのです。ようやく遺族と研究者達の合意条件が交わされたのは、ヘンリエッタさんが亡くなって60年以上経ってからでした。

    その後も遺族は遺伝データの倫理的使用に関する基礎作りに携わり、今では孫のジェリさんも「ヒーラ細胞が科学のために成し遂げたことを誇りに思う」と述べています。

    まとめ

    ヘンリエッタさんは亡くなっていますが、彼女の細胞は生き続けています。ヒーラ細胞(HeLa細胞)が医学や科学に偉大な貢献をしただけでなく、子孫達と一緒に倫理問題解決のために貢献したのです。とはいえ人由来の細胞株として樹立されてから、70年が経とうとしています。ゲノムエラーが多いとされるヒーラ細胞をこのまま培養し続け、今後の研究にも使うのか、疑問視されています。

    出典:ニュートンライト2.0「死とは何か」

       「ニュートン式超図解 最強にわかる!! 死とは何か」

       別冊ニュートン「ゼロからわかる細胞と人体」

    *1:ウイルス 第 61 巻 第 2 号,pp.275-276,2011

    http://jsv.umin.jp/journal/v61-2pdf/virus61-2_275-276.pdf

    *2:HeLa細胞のゲノムはエラーだらけ!

    https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v10/n6/

    *3:Natureダイジェスト HeLa細胞株をめぐる和解への道

    https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v10/n11

    *4:医学史上の無名のヒロイン、ヒーラ細胞提供の女性

    https://www.afpbb.com/articles/-/2961462

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