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ターミナルケアで穏やかな死を迎えられるのか?ターミナルケアを受けた遺体からどう判断する?

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目次

ターミナルケアとは苦痛のない最期を迎えるための医療的処置

ターミナルケアは緩和ケア、看取りケアと同じように捉えられがちですが、意味は少し違います。緩和ケアは癌とHIV感染者にとって主に苦痛を取り除くためのケア、看取りケアとは、自然な最期を迎えるための介護。そしてターミナルケアは苦痛のない最期を迎えるための医療的処置をふくめた介護を意味します。

治療からターミナルケアに切り替えていくのは、食事をとれなくなったときが多いようです。今回はターミナルケアの内容を詳しく解説しながら、海外との違いをみていきましょう。

ターミナルケアとしての身体・精神・社会的ケア

ターミナルケアのターミナルとは、病気が治る見込みはなく、余命が半年程度と予想される時期。苦痛を取り除き、その人らしい最期を迎えることができるように看護計画が立てられます。ここではターミナルケアとして分けられる身体的ケア、精神的ケア、社会的ケアをそれぞれ具体的にみていきましょう。

身体的ケア

ターミナルケアの3分類のうちの1つ、身体的ケアについて5つのパターンに分けてみていきます。

栄養・水分補給

口から食事をとれなくなった場合、体が必要とする栄養を入れるためには3つの方法があります。

1つめは鼻から胃までチューブを通し、栄養剤を注入する方法、2つめは胃ろうを造って胃に栄養剤を注入する方法、3つめは点滴で静脈に栄養を入れる方法です。3つの方法は延命治療になるかどうかで論議されています。もし延命治療になるのなら続けるべきか止めたほうがいいのか、判断が迷われます。

投薬や酸素マスクの装着

鎮静剤を投薬することがありますが、患者の耐えられない苦痛を緩和するためです。また呼吸が苦しそうにみえるため、酸素マスクをつけます。これらは患者の苦痛を取り除くことを目的とするもので、最期を迎えるその日まで安らかに過ごせるようにという配慮です。

体を清潔にすること

入浴して体を清潔にすることは必要なことです。自宅で介護をしている場合は、介護保険を使って訪問介護のサービスを受けましょう。

とはいえ、入浴は患者にとっても負担が大きくなっていきます。着替えや湯舟につかることは体力を消耗するためです。全身を清拭(せいしき)し、髪を整えるだけでも気持ちが明るくなります。女性の場合はメイクもここに入ります。

排泄ケア

トイレでの排泄が負担になってきた場合は、オムツをあてます。ただし、濡れたオムツをあてたままにすると褥瘡(じょくそう)ができやすいため、こまめなオムツ交換が必要。

尿道にカテーテルを入れて尿を排泄する方法もありますが、患者にとって尿道にカテーテルを入れるとき、痛みが生じるそうです。しかし「濡れたオムツをあてたまま」になることがないため、オムツより褥瘡の心配がないとされています。

褥瘡ケア

体重が同じ部分にかかって皮膚を圧迫するようになると、褥瘡はできやすくなります。寝たきりの状態で褥瘡ができると褥瘡の完治は困難です。ターミナル期は皮膚が乾燥し傷つきやすいため、褥瘡はできやすいのですが、褥瘡ができないように予防することが肝心。

予防として定期的に体位変換をします。体位変換と言っても容易ではないことが多いようです。病気による痛みがある場合は体を動かすことが難しくなります。また、点滴や酸素マスクをつけている場合や、腹水がたまってむくみがみられる場合も体位を変換させることは簡単ではありません。

精神的ケア

ターミナルケアの3分類の2つ目、精神的ケア。精神的ケアは死に対する不安や恐怖心、また家族と別れる辛さ、心配などを取り除くためのケアです。患者の気持ちに寄り添い、患者の話をよく聞くことが大切。家族となるべく一緒に過ごす時間をもつなど、患者を1人にさせないようにしましょう。

社会的ケア

ターミナルケアの3つ目、社会的ケアは患者を社会制度や福祉制度を利用してケアすること。経済的な問題は、患者にとっても大きな不安となります。ターミナルケアを受けることで医療費がかかり、患者はとてもストレスを感じることが多いそうです。ターミナルケアを継続していくためには医療費を少なくできるかなどお金に関わる悩みを、「医療ソーシャルワーカー」に相談することが多くなってきます。

ターミナルケアが行われる場所*₁

ターミナルケアは病棟でも行われますが、最近は自宅や介護施設で行われることが増えています。病棟では主に患者の治療や検査を優先させていますが、自宅で介護をしていて状態が急変した場合、救急搬送されると、そのまま病院で医療的処置としてターミナルケアを受けるケースもあるようです。

2020年の創設された終末ケア専門士*₂

終末ケア専門士とは、日本終末期ケア協会が創設した資格です。患者の日常生活や身体症状に合わせたケア、また疾患別の終末期ケアを学び、そして科学的根拠に基づいたケアを行うことで終末期の患者を支えることを目的としています。

患者それぞれに合った終末期ケアを家族に寄り添いながら提供する終末ケア専門士ですが、医療、看護、介護の資格をもつ人に受験資格があり、試験は1年に1回行われます。

死の間際の苦しみ

ターミナルケアは患者の苦痛を取り除くための医療的ケアとされていますが、逆に苦痛を与えるのではないかという議論がなされています。在宅で最期を看取った経験を多く持つ在宅医師達の反論をみていきましょう。

点滴で補う水分・栄養:脱水・飢餓状態解消に反論

脱水や飢餓状態に陥ると苦痛が心配されます。しかし在宅医師達によると、脳内モルヒネが分泌されるために、患者は苦痛を感じていないそうです。終末期の体は死んでいく体。水や栄養を必要とはしていないため、点滴をすれば逆に全身のむくみがひどくなると言います。

酸素マスクで補う酸素:酸素を補うことは逆に苦痛

終末期に呼吸の状態が悪くなると、周囲には辛そうにみえます。しかし患者の体内に二酸化炭素がたまり、脳内モルヒネが分泌されるではないかというのが在宅医師達の反論。酸素マスクをつけて酸素を補うと、脳内モルヒネが分泌されなくなると言われています。

実際に、高齢者の最期を何人も看取ったヘルパーが、酸素マスクをつけていない患者に直接苦しいかどうかを聞いたところ、患者は一様に「苦しくない」と返答したそうです。

脳内モルヒネ*₃

脳内モルヒネとは、脳内の神経伝達物質であるエンドルフィンのこと。モルヒネよりも高い鎮痛効果があります。

エンドルフィンにはアルファ、ベータ、ガンマの3種類があり、苦痛を取り除くときに最も多く分泌されるのがベータ・エンドルフィン。マラソンなど苦しい状態が続いた後はベータ・エンドルフィンが分泌されるために、いわゆる「ランナーズハイ」となると言われています。

遺体の状態

映画『おくりびと』のもととなった青木新門著の『納棺夫日記』。納棺夫も在宅医師達と同様に、最期まで点滴をした遺体としなかった遺体は、見ればすぐにわかると証言。ここでは点滴をした遺体としなかった遺体を比較してみましょう。

点滴をした遺体

『納棺夫日記』では、最期まで点滴をした遺体のことを「生木を割いたよう」で「点滴の針跡が痛々しい」と描写しています。また臨床医は終末期に点滴をすることは患者にとって「溺れたのと同じくらい辛い」と表現しています。

点滴をしなかった遺体

後述の『人間の死に方』には亡くなったお父さんの死に顔を「穏やか」と描写。褥瘡はなかったそうです。また500人以上を看取った長尾和宏意医師によると点滴や胃ろうから栄養剤を多く入れていた人は褥瘡が多い印象をもっているそうです。

日本と海外におけるターミナルケアの違い*₄

2012年に発表された「終末期、看取りについての国際制度比較調査」では、日本は病院で死ぬ「病院死」の数が圧倒的に海外の国より多いそうです。日本と海外で、病院死の割合の違いをみながら分析結果を見てみましょう。

日本の場合:病院死となる経過

終末期に胃ろうや気管切開などの手術を望む場合は、入院が必要です。手術後も病院で継続して治療するため、病院での死亡率が高くなるそうです。

医療従事者にアンケートをとり、「自宅は終末を迎えるために支援するべき場」という回答が80%弱。それに対して「死を現実に迎える場」という回答は10%にも満たなかったそうです。

臨床医は、自分の死や家族の看取りが100%やってくることへの認識が不足していることを指摘しています。また自宅への医療・介護チームがあまり配備されていないことも問題だそうです。

海外の場合:「死」に対する議論の蓄積

日本の病院死の割合が約80%なのに対して、アメリカは43%、フランス57%、オランダ30%(2007年調査)。同程度の医療水準の国々と比較して、日本だけ病院死の割合が突出しているのはなぜでしょうか?

欧米は以前から長寿だったために国民全体で「死」に対する議論が長きにわたってなされてきたそうです。議論の末に「終末期ケア戦略」や「安楽死法」が制定。一方、日本は急速に長寿の国となり、欧米ほど死と向き合う議論のがなされていないことが指摘されています。

いつ最期になるかは医師にも不明

医師にとっても、患者の余命を厳密に計ることは難しいそうです。ここでは医師の余命宣告と実際の余命をあげてみます。

余命宣告と違った日数:介護職員の証言

医師に余命40日程度と言われ、看取りのため介護施設に入所した67歳男性。入所10日目、いつものように自力で点滴をつけたままトイレに行き、ベッドに戻ったそうです。しばらくして職員が様子を見に行くと亡くなっていました。

食事を拒絶した元医師の延命:『人間の死に方』(著者 久坂部羊 幻冬舎新書)

『人間の死に方』を執筆した久坂部羊氏は医師でした。久坂部氏は自身の父親の最期を詳細に綴っています。

著書には著者の父親も医師でもあり、糖尿病を患いヘビースモーカーだったことが率直に書かれています。さらに父親が前立腺がんの告知を受け、骨折して寝たきりとなったとき、「もう長くない」と食事を拒絶。

しかし2週間が過ぎた頃から少しずつ食欲が出て口から食事をとり始めたそうです。結果的に1年以上の延命となりましたが、医師でさえ、自身の余命を計ることは難しいことがわかります。

まとめ

たとえ医師でさえ、余命の長さを正確に計ることはできません。終末期にどこまでの治療を望むのか、あらかじめ家族とよく話し合っておくことやエンディングノートに書いておくとをすすめられています。

しかしあらゆる状況を予測して、終末期はどこまでの治療を望むかを決めていくこともまた難しいことではないでしょうか。状態の変化に応じて、その都度自身の気持ちを家族に伝えていき、医療従事者を交えて話し合っていきましょう。

「死」は必ず訪れるもの。とはいえ延命治療を望んで「死」を先延ばしにする選択もあります。もし「死」を先延ばしにしたのなら、その時間を自身や家族はどのように過ごせばいいのでしょうか?前述した『人間の死に方』には親孝行をしていなかった場合、罪悪感から家族は延命治療を望むケースが多いようだと記されています。延命した時間は、家族と一緒に本音を語り合う「時」なのかもしれません。

*1「延命か自然な死か」家族に迫られる重い決断ー終末期医療の現実

https://news.yahoo.co.jp/feature/1145

*2終末ケア専門士とはー一般社団法人終末期ケア協会

https://jtca2020.or.jp/about-specialist/

*3β-エンドルフィンーeヘルスネット(厚生労働省)

*4日本の看取り、世界の看取り

http://www.ilcjapan.org/study/doc/summary_1101.pdf

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