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死亡推定時刻に幅があるのはなぜか?より正確に推定できる虫の存在とは?

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死亡推定時刻は死体の状態から死亡時刻を逆算すること

ドラマでしばしば耳にする死亡推定時刻。法医学を学んだ医師が死体の腐敗状態などから死亡時刻を推定しますが、実は幅があります。今回は死亡時刻を判断するための項目や推定時刻に幅がある原因、さらにより正確に算出できると期待されている虫を用いた判断方法について解説します。

死亡推定時刻を判断に用いる7つの遺体の状態*₁

死体の状態から死亡時刻を推定します。それには死体の体温の低下、死後硬直、死斑の有無、角膜の混濁、胃の内容物の有無、膀胱にたまっている尿の量、遺体の腐敗状態です。ここではその項目を1つずつ詳しく解説します。

体温の低下

体温の低下は直腸内の温度を計測して判断します。死後2~3時間後までは緩やかに低下していきますが、その後は大きく低下。また季節によって体温の下がり具合が違い、春や秋は1時間に1℃、夏は0.5℃、冬は2℃下がるそうです。

このように遺体の体温は変動し、さらに季節によって変動の速さが異なるため、死後まもなく発見された場合は時刻を絞って推定できますが、時間が経って発見された場合は、推定時刻は曖昧なものとなってしまいます。

体温低下の仕方は環境や体格で違う

体温低下に影響を与えるのは、季節だけではありません。周囲の気温や体格によっても違いがでることも。例えば冬、家の中でしかも布団の中で発見された場合と外で発見された場合では、体温の低下の仕方は大きく変わってきます。また、太っている人は低下が遅いそうです。

死後硬直

死亡してすぐは体が弛緩状態ですが、1時間程度経つと顎から硬直し始めます。次に首や手足の関節、手足の指の順で。死後12時間経つと全身が硬直状態になり、その後は1~2日で死後硬直がとけていきます。

死後硬直も気温が影響し、また大人と子供でも違います。子供は大人より遅く、さらに激しい運動をしていた場合は硬直が早く起きるそうです。

死後硬直するのはエネルギーが途絶えるから

死後はエネルギーが補給されなくなるため、筋肉が硬直します。言い換えると生きているときは、エネルギーが常に補給されているために筋肉が動くわけです。

また全身が硬直した後に硬直が解けるのは酵素の働きによるものだそうです。

死斑の有無

死斑とは重力のかかる部位にできるあざのようなもの。これは血液の流れが止まり、重力のかかる部位に血液が溜まるためです。死後20分くらいで小さな死斑ができ始め、しばらくは体位を動かすと死斑の位置も動きますが、死後半日以降は体位を動かしても死斑の位置は変わりません。体位を変えて、死斑が動くかどうかなどで死亡時刻を推定していきます。

角膜が混濁している状態

死亡すると目の角膜がくもりはじめ、さらに9時間以降は濁ります。気温や目を開いているかどうかでも角膜の濁りかたは違ってきますが、目が開いたままの状態では目がすぐに乾燥してしまうために混濁するのも早いそうです。

胃の内容物の有無

胃の内容物の消化具合から、食後の経過時間を推測できます。胃で消化された後は消化物は小腸の一部である十二指腸へ、さらに小腸、大腸へ移動していきます。胃に内容物が残っているのは食後1時間程度。大腸に届いていれば、食後6時間以上経っていることになります。ただし消化時間は個人差があるので、これらの経過時間は目安にする程度なのかもしれません。また、胃の内容物から何を食べたのかがわかるそうです。

膀胱内の尿の量

膀胱にたまっている尿の量で推定できます。膀胱内に蓄積される尿の量は1時間で約60ml。就寝中に死亡した場合で尿の量が少ないときは、就寝後まもなくの死亡とされ、失禁していた場合は、尿の量での推定は困難です。

腐敗

微生物や腐敗菌により死体が分解されます。腸から腐敗が始まるとされ、発生したガスの圧により微生物や腐敗菌が体内を移動。このため全身が腐敗していくそうです。腐敗の始まりは季節によって違い、春や秋は死後2~7日で、夏は2日、冬は7日。また腐敗は温度や湿度、空気の流れによって進行が変わってきます。腐敗が進むにつれて腐敗臭が発生。ちなみに臭いはインドールまたは硫化水素の臭いがするそうです。

死亡推定時刻に幅があるのはなぜか?

死亡時刻を直腸の温度から推測するのが最も正確だそうです。しかし死後すぐに発見された場合ならともかく、時間が経過していれば大まかな推測となってしまいます。ではより正確に時刻を特定するには、体温とその他の推定できる要因を合わせて、時刻を絞り込んで推定すればいいと思いがちですが、実は正確な死亡時刻の特定は非常に困難です。ここでは、算出された死亡時刻に幅ができてしまう原因について解説します。

死亡推定時刻は結局のところ経験則

推定時刻は遺体をみる経験の多い法医学医が判断します。法医学医とは、遺体を医学的・科学的に調査する医師のこと。しかし知識と経験がどんなにあっても法医学医は、遺体の状態を数値化することはできません。つまり遺体の状態は気温や天候、環境によって、さらに個人差によっても変わるからです。死後硬直や腐敗の進み具合、死斑の色などを法医学医が主観的に強い、弱いなどで判断し、総合的に推測します。判断基準となる遺体の状態についての見解が数値ではなく「強弱」など数値ではない尺度を用いいているため、細かく時間を絞り込むことは難しいそうです。

より正確に判断するためのボタン型温度データロガー

ボタン型温度データロガーは直腸内での体温を正確に計測することができます。5分ごとに体温を記録できるので、死体発見後すぐに直腸内の深部に挿入。また外気温を測定するために遺体の側にもデータロガーを置き、経過時間による体温の低下と外気温との関連をみていきます。

データロガーがあれば外気温の変化などを加味して、より正確に死亡時刻を推定できるとされています。

腐敗しない遺体もある

特殊な環境では腐敗の進行が停止します。腐敗に影響を与えるのは温度と湿度、そして空気の流れ。では、これらの3つの要素が絶たれた環境にある遺体はどうなるのか。ここでは腐敗が止まった遺体の例として「ミイラ」と「死蝋(屍蝋:しろう)」についてみていきます。

ミイラ

気温は高温すぎても低温すぎても腐敗は進みません。ミイラとは遺体の腐敗が乾燥などの要因で止まり原型をとどめている遺体です。遺体が高温の環境で乾燥され、風通しがいい場所に安置された場合、腐敗が停止しミイラとなります。古代では人工的にミイラ処理をする習慣や風習もあり、意図せずミイラを作り上げた場合もあれば、「死後の肉体を保存する」という目的でミイラ処理をする場合もありました。

死蝋(しろう)

空気の流れのない水中や湿った土中に遺体がある場合、腐敗は停止し死蝋(屍蝋)となります。死蝋とは蝋のようになった状態の死体を指します。低い温度の水の中に置かれた遺体は、体内の脂肪が分解され、また水に含まれるアルカリ成分と結合し石鹸のような状態になります。これが死蝋です。全身が死蝋となるには1年以上かかるとも言われており、年間を通じて水温が低温で一定に保たれている必要があります。

虫から導き出す死亡推定時刻*₁,₃

死体に群がる虫から死亡時刻を推定できるそうです。これは死体の状態から推定するより正確なのかもしれなません。ここでは死体に群がる虫を用いた推定方法をみていきましょう。

ハエの発育から推定できる

死後数分で死臭をかぎつけて飛んで来るクロバエやニクバエ。これらのハエの発育具合から死亡時刻を推定できます。

つまり、これらのハエは死肉に取りつき、産卵。卵は1日足らずで孵化(ふか)しその後、2~12mmのウジ虫になるのに1週間、卵から蛹(さなぎ)や成虫になるには2~3週間と言われています。成長期間に若干の幅があるのは、気温によって変わるためで、気温を考慮してハエの成長状態を考えれば、死亡時刻をより正確に推定できるようです。

カツオブシムシ*₂が集まることから推定できる

死体の腐敗が進んで、乾燥し始めるとカツオブシムシが群がって来ます。ハワイのオアフ島では、死体の腐敗が始まって群がるまでに8~11日間。この虫がいれば死後かなり時間が経っていると言えます。

まとめ

人は死ぬと死体現象が始まり、そのまま放置されれば小さな虫に食われます。肉体はやがて自然へと還っていくのです。死亡推定時刻の算出は自然の中の生と死のサイクルを利用しています。「いつ死んだのか」を厳密に算出することは今の人類では困難ですが、「死」というものを見つめ続けてきた法医学はまさに日進月歩。人間による「死とは何か」に対する答え探しの一端がここに垣間見えるのです。

*1死体現象論

http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~legal/images/k0406360400prn.pdf

*2ミステリーの定番!死亡推定時刻を割り出し計算する7つの求め方

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*3食品害虫 農研機構

https://www.naro.affrc.go.jp/org/nfri/yakudachi/gaichu/column/column_013.html

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